遺伝子組換え牧草が世界的に普及しつつあるなか、わが国においても近い将来その栽培が行われると見込まれている。遺伝子組換え作物を栽培するにあたっては、組換え体由来の遺伝子が花粉放散により圃場外へ逸脱した際の生態系に及ぼす影響について把握しておく必要がある。本研究では、牧草-雑草間の遺伝子流動様式を解明し、花粉放散による牧草地からの遺伝子逸脱に対するリスク評価を行った。 十勝館内に存在する牧草地から、オーチャードグラス、およびアカクローバを栽培しており、かつ周辺域に両植物種の雑草集団が存在するものを2箇所選び、調査サイトとした。雑草集団内に方形区を設置し、植物の齢構戒を調べた。オーチャードグラスに関しては、成植物体の割合が高く、本年度に新たに集団に参入したと思われる個体がほとんど見つけられなかった。オーチャードグラス集団内では世代交代率が極めて低いことを示唆している。一方、アカクローバに関しては、本年度に新たに集団に参入したと思われる個体が全体の15%程度を占めていた。アカクローバ集団内では頻繁な世代交代が行われていることを示唆している。これらの結果から、遺伝子組換え体と雑草との間で自然交雑が生じた場合、形成された雑種が自然集団内に参入する可能性はアカクローバの方が高いと考えられる。方形区内のオーチャードグラス、およびアカクローバからDNAを抽出した。マイクロサテライトマーカーの多型性から集団の遺伝構造を解析したところ、両植物種とも牧草地に近い方形区内の個体ほど牧草地内の個体との遺伝子型の類似性が高い傾向を示した。牧草地からの距離が近い雑草集団ほど、牧草からの遺伝子流動の程度が高いことが示唆される。
|