多くの作物において遺伝子組換え品種の普及が進んでいる。わが国においても将来的に遺伝子組換え作物が一般耕地で栽培される可能性がある。遺伝子組換え作物の栽培にあたっては、組換え体由来の遺伝子が花粉放散により圃場外へ逸脱することが懸念される。特にそのほとんどが他殖性である飼料作物においては、その問題が重要となる。平成19年度は昨年度に引き続き、牧草-雑草間の遺伝子流動様式を解明することで、花粉放散による牧草地からの遺伝子逸脱に対するリスク評価を行った。 帯広畜産大学実験圃場内にアカクローバ草地を造成した。草地内ではアカクローバ5品種を4プロットずつ、等しい距離を隔て無作為に配列した。各品種のプロットのうちひとつについては刈取り等の栽培管理を行わず(粗放栽培)、アカクローバが自然界で雑草として生育する場合と同様の条件にした。アカクローバに自然交配をさせた後、各プロットから種子を採集した。種子とその種子親個体の遺伝子型をマイクロサテライトマーカーによって同定した。そして、種子の遺伝子型、および親個体の遺伝子型をもとにプロット間の遺伝距離をそれぞれ算出した。いずれのプロットについても、近隣プロットとの間の遺伝距離は、種子の遺伝子型をもとに算出した場合の方が親個体の遺伝子型をもとに算出した場合よりも小さくなった。ただし、10m以上の距離を隔てたプロット間ではこの傾向が認められなかった。これにより、アカクローバが10m以内に隣接して存在する場所では、花粉放散により遺伝子流動が生じることが分かる。一方、粗放栽培を行ったプロットでは、他の雑草との競合のため、落下種子による新規アカクローバ個体の出現が少なかった。野草として生育する環境下では、異なる品種との交雑が起きた場合も、その雑種が個体として集団内に参入する頻度は低いと考えられる。
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