平成18年度に実施した研究結果から、天然型CLAを作用させたヒト乳がん細胞株において呼吸代謝関連酵素群の発現量が減少するという新知見を得た。このことに基づき、本年度は、細胞の呼吸に関連する酵素群の発現量を生化学的手法により測定すると共に、細胞内で産生されるアデノシン3リン酸(ATP)の量をルシフェラーゼアッセイにより測定し、乳がん細胞の呼吸代謝に及ぼす天然型CLAの影響を解析した。その結果、天然型CLAの添加により乳がん細胞株MCF-7の解糖系関連酵素群の発現量は有意に減少した。しかし、細胞内のATP量には有意な差異を認めなかった。同時に細胞内ミトコンドリア量ならびにミトコンドリアにおける呼吸基質の酸化活性についても検討を行ったが、それらにも明確な差異は認められなかった。このことから、天然型CLAは解糖系酵素群の発現量には影響を及ぼすが、それらの発現量の低下は直接細胞内のATP量に影響を及ぼすものではないことが示された。 一方、天然型CLAはエストロゲンによる細胞周期関連たんぱく質であるcyclin D1およびcyclin Eの発現量を低下させることがウェスタンブロッティングにより確認された。さらに、免疫染色法による検討結果から、エストロゲンおよび天然型CLA共存下で培養した乳がん細胞内において、エストロゲン受容体の核内への移行が天然型CLAの存在により阻害されることが示された。エストロゲン受容体の核内への移行阻害がどのような機序で起こるかについてを本年度の研究において明らかにすることはできなかったが、これらの結果は、天然型CLAはエストロゲンによる増殖シグナルの核内への伝達を阻害し、核内における細胞増殖に直接関与する種々のたんぱく質の発現量の低下を介して、乳がん細胞の増殖を阻害することを強く示唆するものであった。
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