研究概要 |
Streptococcus bovisはルーメン内の主要な乳酸生成菌であり、デンプン分解能が高い。常在ルーメン菌の中では最も低pHに耐性のある菌であり、ルーメンアシドーシスを加速度的に進行させる菌と考えられている。乳酸生成を制御することを終局的目的として、S.bovisの発酵調節機構を解明するための実験を行なった。 解糖系の鍵酵素の一つであるピルビン酸キナーゼ(PYK)に着目し、その酵素学的特性について調べた。PYKは、フルクトース1,6-ビスリン酸よりもグルコース6-リン酸(G6P)により大きく活性化された。ホスホエノールピルビン酸に対するPYKの親和性は、G6P濃度の影響をほとんど受けなかった。PYKは種々のヌクレオシド二リン酸をリン酸受容体として利用することができたので、菌体内ではATPだけでなく、GTP、ITP、UTPなどの生成にもPYKが利用されると考えられた。PYK活性は無機リン酸イオンによって大きく阻害されたが、その阻害はG6Pの添加により回復した。グルコースを基質とする培地でS.bovisをバッチ法で培養したところ、対数増殖後期以降、増殖速度が低下していくにつれて、菌体内のリン酸イオン濃度が増加し、G6P濃度が減少した。一方、PYK比活性、すなわち菌体量あたりのPYK量は、大きくは変化しなかった。従って、菌体内のPYK活性は、酵素量よりも菌体内のリン酸イオンとG6Pの濃度に大きく依存すると思われる。また、PYK活性は発酵パターンや増殖に影響すると推測された。 また、解糖系の酵素の一つであるグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)の塩基配列を決定し、Genbankに登録した。リコンビナントGAPDHが活性を持つことを確認した。gapA過剰発現株および親株をグルコース培地で培養したところ、これらの菌株間で増殖速度には、ほとんど差がみられなかった。また、gapA過剰発現株の乳酸とギ酸の生成割合も親株の場合と違いがなかった。従って、GAPDHは律速酵素ではなく、その過剰発現が発酵パターンに及ぼす影響は小さいと考えられた。
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