研究概要 |
本研究では、複雑な生活環と高い宿主特異性を特徴とするバベシア原虫の宿主域決定機構を解明することを目標に、バベシア原虫へ効率良く外来遺伝子を導入する系を確立し、これを用いた発現クローニング法により、バベシア原虫の宿主決定に関わる因子の同定を試みている。平成18年度はウシに感染する代表的なバベシア原虫であるBabesia bovisに、外来遺伝子を導入するための発現ベクターの作製を試みた。強いプロモーター/エンハンサー活性を有するrap-1遺伝子の上流ならびに下流領域をPCR法によりクローニングし、この領域でレポーター遺伝子を挟んで作製した発現ユニットを既存のレトロウイルスベクターの哺乳細胞用発現ユニットと置換することにより、レトロウイルスベクターを背景にするB.bovis用発現ベクターを構築した。種々の遺伝子導入法を用いて、この発現ベクターによるB.bovis虫体内でのレポーター遺伝子の発現を検討したが、良好な成績は得られなかった。近年、マラリア原虫に効率良く外来遺伝子を導入可能な改良型電気穿孔法が報告されている。現在、この遺伝子導入法のバベシア原虫への応用を検討するとともに、B.bovisゲノムにおける、より強いプロモーター活性が期待される領域のクローニングと発現ベクターの再構築を進めている。 また本年度には、真核生物の分裂増殖制御に必須な分子であるCyclin依存性kinaseがB.bovisの生活環成立には必須である可能性を阻害剤を用いた実験により証明し、バベシア原虫の複雑な自己複製機構を解明する一助とした(Nakamura et al.,2007,Parasitology,印刷中)。
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