動物種を問わず、自発性・習慣性流産の95%以上は着床期に起こる。これら流産を抜本的に解決することは、動物食資源の確保、動物種の保存にとって非常に重要なことであり、解決のためには着床の分子機構の全貌を明らかにすることが必須である。しかし、これまで胚の着床を制御している分子機構については断片的な知見しかなく、流産回避の見込みも立っていない。胚の着床現象は、胚の子宮内の位置取り、子宮内膜への接着、母体の組織変化が相互に絡み合った非常に複雑な現象である。本研究では、マウス胚の着床現象を(1)胚が子宮表面に接着してから開始される母体の脱落膜化(2)胚が子宮内で等間隔に配列する事象(3)胚が反間膜側にのみ着床する事象の三つに分けたうちの(3)についてマイクロアレイ法を用いて網羅的な遺伝子解析を行った。反間膜側および間膜側上皮を分離し、着床期における両者の遺伝子発現の違いを検討した。結果、自己と非自己の認識に関与すると思われる分子群、また数々の転写調節因子の発現に大きな違いが認められた。着床現象は、妊娠4日目 (膣栓確認目を妊娠1日)の正午付近で起こる一過性のエストロジェンの上昇(呼応して起こる白血病阻止因子の作用)により開始され、子宮の劇的な構造変化を伴う。今回の採材は、このエストロジェンの上昇に先立って行なわれたため、間膜側、反間膜側子宮上皮の双方で形態学的な変化は認められていない。にもかかわらず、分子のレベルではいくつかのものが20倍を越える発現の違いを示しており、着床の開始に先立って胚の着床部位は決定されている可能性が示唆されるとともに、今回検出された分子群の操作により着床現象を操作できる可能性が期待される。
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