病気にかかりにくい、かかりやすいは環境要因とともに宿主の遺伝的要因があげられる。ヒトでは各種疾患における免疫応答性の差が人種や家系によって異なっていることが確認されており、これらは個々の免疫応答制御遺伝子が多型に富むことが理由であるとされている。このような免疫制御因子の一つであるサイトカインは多くの疾患と密接に関係し、その発現の差によって病態の予後を左右している。しかしながら、サイトカインの発現には個体差があり疾患感受性に大きく影響を与えており、サイトカイン遺伝子の多型解析から各サイトカインの発現個体差、さらには感染症をはじめ癌、自己免疫疾患、移植後免疫など疾患感受性を規定する一つの因子であることが明らかとなってきた。疾患感受性の差は家畜でも認められ、品種間や系統間での差、いわゆる個体差の存在は明らかである。しかし、畜産領域における抗病性に関する遺伝子レベルでの報告は少なく、サイトカイン遺伝子の多型解析は行われていない。そこで、疾患感受性が遺伝子レベルで明らかにならば、未だ原因が明らかになっていない疾患の発症機序の解明や抗病性家畜の開発において大きな発展をもたらす可能性があると考え本研究に至った。申請者らは、これまでに牛白血病ウイルス(BLV)感染症においてサイトカインが病態進行に密接に関与し、とくに腫瘍壊死因子(TNF-α)がウイルス増殖を助長していることを突き止めた。しかし、羊を用いた感染実験から、ワクチン接種の有無に関係なく感染初期にTNF-αの発現が亢進した個体はウイルスを排除し白血病発症に抵抗性を示したのである。すなわち自然抵抗性動物の存在である。そこで、自然宿主である牛のTNF-αの遺伝子多型解析を行なったところ、TNF-αのプロモーター領域に多型が存在し、-824番目の塩基がG(グアニン)かC(シトシン)であるかによってBLV感染の病態進行に深く関与していることが示唆された。すなわち、白血病を発症した牛では同領域がGである個体が多くTNF-αのプロモーター活性が低かった。一方、感染後、ウイルスの増殖を認めず無症状キャリアーで経過した牛の同プロモーター領域はCであり、その転写活性がGである場合に対し高かった。このことから、プロモーター領域の遺伝子多型がTNF-αの発現の差をもたらしBLV感染後の病態の予後を左右していると考えられた。さらに、近年アフリカ・ザンビア共和国において行なった致死性原虫疾患を引き起こすタイレリア・パルバ(T.parva)の感染調査を行なった結果、ザンビア共和国の土着牛であるサンガ種は、いわゆる外来種(ホルスタイン-フリージャン種)の感染実検で認められた致死的原虫数に感染しても、病態進行に抵抗性を示すことが明らかとなった。現在、T.parva感染後に両品種においてサイトカインの推移に差が認められるか否かについて解析を行なっている。
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