わが国で保護される傷病野生動物の中には絶滅危惧猛禽類も少なくない。これら傷病希少猛禽類の多くは交通事故や建造物衝突などによる骨折を伴っていることがほとんどである。本研究では、希少な猛禽類を1羽でも多く野生復帰させて個体数減少に歯止めをかけることを究極のゴールとし、傷病希少猛禽類の1)診断、2)治療、3)リハビリテーションの一連の過程における臨床獣医学的な診断および治療技術を開発・実践して野生復帰率を向上させることを目標とした。研究は本学COE野生動物救護センターを拠点に本学附属動物病院とも共同で実施した。 1)トビ(生体)、希少猛禽類(死体)などをモデル動物としてコンピューター断層撮影(CT)を利用した3次元画像診断法の確立を試みた。鳥類のCT検査条件については継続して検査を実施する。 2)生体モデル動物(トビ)におけるアクリル硬化樹脂を用いた骨折整復術法の開発を試みた。獣医学臨床分野で使用される外固定用硬化剤は比重が高いため、野生復帰を目的とする鳥類への適応が困難な場合が多い。そこで本研究では国内で入手可能なアクリル硬化樹脂による手術法を試みた。今年度は1例でしか実施できなかったため、来年度も引き続き適応し知見を得て、治癒過程を画像診断などにより評価し、固定解除のガイドラインを作成する予定である。 3)生体モデル動物(トビ)における血中乳酸値を指標にした飛翔訓練法の確立を試みた。乳酸値を指標とした場合には、経時的採血とリアルタイム評価が必要である。そこで、ヒト用の携帯型血中乳酸測定器が適応可能であることを評価した。また、これを用いてリハビリ運動前後の乳酸値の変動をモニタリングした。 今年度は、さらに症例を確保して先進的な試みを行っている海外への研修を行い、研究目標を達成する予定である。なお、今年度の研究結果は、国際シンポジウムおよび学会発表を行っており、学術論文として執筆中である。
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