HBCDは近年その使用量が増加している臭素系難燃剤であるが、日本における環境汚染の情報はきわめて限られている。本研究の目的は、我が国沿岸のHBCD汚染の現状を、環境試料(底泥とカキ)の化学分析により把握することにある。本年度は化学分析手法の確立、および分析精度確認のためのインターラボキャリブレーションを計画した。その成果は以下のようにまとめられる。 1.HBCDに関して先駆的な研究を展開しているカナダ環境省National Water Research Institute・Alaee博士らのグループ、および愛媛大学沿岸環境科学研究センター・田辺信介教授らのグループとの共同研究により、LC/MS/MSを用いたHBCD検出の最適条件を決定した。これまでHBCDの3異性体を個別に定量することは困難であったが、本研究ではそれらの高感度定量が可能となった。 2.環境試料を対象としたHBCDの抽出法および精製分画法を検討した。振とう機やソックスレーを用いた抽出、またシリカゲルカラムやフロリジルカラム、ゲルろ過カラム、活性銅などによる精製分画の最適条件を決定した。HBCD標準品を底泥および生物試料に添加した回収試験を実施したところ、それぞれで良好なGC/MS/MSクロマトグラムと回収率を得ることができた。 3.本研究により確立したHBCD分析法の精度を確認するため、カナダ環境省・Dr.Alaeeらのグループとインターラボキャリブレーションを実施した。双方の研究所で同一試料中のHBCD濃度を分析したところ、その定量値には良好な一致がみられた。このことにより、当分析手法による定量値は信頼に値するものであることが確認された。
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