HBCDは近年その使用量が増加している臭素系難燃剤であるが、日本における環境汚染の情報はきわめて限られている。本研究の目的は、我が国沿岸のHBCD汚染の現状を環境試料(底泥とカキ)の化学分析により把握することにある。本年度は、東京湾で採取されたセジメントコア試料とカキ試料を化学分析に供し、汚染の将来予測および国内における汚染源を推定することを目的とした。その成果は以下のようにまとめられる。 1.東京湾で採取されたセジメントコア試料を化学分析に供したところ、HBCDsは1970年代以降の全ての試料から検出された。HBCDs濃度はBDE209の約1/10程度であるが環境中に40年以上前から存在している化学物質であり、またHBCDs濃度は1970年代から今日まで上昇を続けているということが明らかとなった。本結果から推測すると、環境中のHBCDs残留濃度が今後も上昇を続ける可能性が示唆された。 2.日本全国20地点で採取したカキおよびイガイ試料を化学分析に供したところ、全ての試料からHBCDsが検出された。日本沿岸はHBCDsによって広く汚染されていることが明らかとなった。マガキおよびムラサキイガイから検出されたHBCDsの濃度範囲は12〜5200ng/g(脂肪重当たり)であり、最も高い濃度は大阪湾で採取されたマガキから検出された。それらは同試料から検出されたPCBsと同程度の高い濃度であり、国際的に比較してもっとも高い濃度であった。 以上の成果より、東京湾の底泥中HBCDs濃度は現在まで上昇を続けており、また日本沿岸生物の汚染レベルは世界的にも高いことが明らかとなった。今後の汚染の顕在化を防ぐため、HBCDsレベルの継続的な監視が必要であると考えられた。
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