本研究は、動物由来レクチンで唯一溶血活性を示すことが知られているCEL-III(Cucumaria echinata lectin-III)について、(1)バキュロウイルス-昆虫細胞による発現系を用いて溶血活性を保持した組換え型CEL-IIIタンパク質の機能的発現系を構築して、(2)溶血時の膜貫入・会合体形成ステップに直接関与するアミノ酸残基をCEL-IIIの変異体解析により同定して、CEL-IIIによる溶血メカニズムの全体像を明らかにするとともに、(3)マラリア伝播阻止を目指したトランスジェニック蚊の創製に有効な、特定の型の赤血球に対して強力な溶血活性を示す高機能CEL-III分子をファージディスプレイ法を利用して選抜し、作製することを目的にしている。 本年度は(1)溶血性レクチンCEL-IIIの機能的発現系の構築について検討した。CEL-IIIタンパク質の機能的発現のためにバキュロウイルス-昆虫細胞による発現系を使用した。まず、CEL-III遺伝子をバキュロウイルストランスファーベクター(pBAC-gus系)にクローニングし、組換えトランスファープラスミドを構築した。その際に、培地中への分泌発現を試みるためにメリチンのシグナル配列をN末端に付加したもの、または付加していないものを作成した。また、C末端に精製を容易にするためにHis-Tagを付加したのもの、または付加していないものを作成した。構築したプラスミドとバキュロウイルスゲノムDNAをSpodoptera frugiperda(Sf)9細胞にコトランスフェクトし、相同組換えによって組換えウイルスを得、つづいてプラークアッセイを行って、組換えウイルスを純化した。このように作成したウイルス株を用いてCEL-IIIタンパク質の発現をウエスタン解析により検討したところ、メリチンのシグナル配列を付加したものについて、Sf9細胞内、および培地中へのCEL-IIIの発現が確認できた。発現最適時間は培養後約6日目であったので、大量培養を行なって、GalNAc-セルロファインカラムによるアフィニティークロマトグラフィーを行ない、組換え型CEL-III(rCEL-III)を精製した。rCEL-IIIはC末端にHis-Tagの有無にかかわらず、赤血球凝集活性を示したが、それは野生型CEL-IIIよりもやや活性が低いことも明らかになった。また、溶血活性も野生型CEL-IIIに比べると低いことが明らかになった。現在その諸性質について検討中である。
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