本研究は、溶血活性を示すことが知られるCEL-III(Cucumaria echinata lectin-III)について、1)組換え型CEL-IIIタンパク質の機能的発現系を構築し、2)溶血時の膜貫入・会合体形成ステップに直接関与するアミノ酸残基をCEL-IIIの変異体解析により同定してその溶血メカニズムを明らかにするとともに3)マラリア伝播阻止を目指したトランスジェニック蚊の創製に有効な強力な溶血活性を示す高機能CEL-III分子を選抜し、作製することを目的にしている。本年度においては主に1)と3)について研究を行った。1)CEL-III機能的発現系構築:CEL-IIIのバキュロウイルス-昆虫細胞による発現系を用いて新たにN末端にHis-Tagを導入した分子の作製を試み、また精製法を改良した。溶媒条件を検討することによって培養液を直接アフィニティカラムに供与する方法を考案し、1段階で精製が可能になった。これまでに得られた組換え型CEL-IIIはauthentic CEL-IIIと比較して糖特異性は変化していなかったが、2%程度の溶血活性を保持するにとどまった。この溶血活性の低下は、赤血球上で検出されるCEL-IIIオリゴマーの量が極少量であることからオリゴマー形成能の低下によることが示唆された。現在、それらの糖結合能に関して速度論的解析を行っている。3)CEL-III高機能化:赤血球膜上糖鎖に対してより高い親和性(結合能)を持つCEL-III分子を作製するため、まずCEL-IIIの2つの糖結合ドメインのうちドメイン1の領域(CRD1)のみからなるタンパク質を作成した。ここではAsp23、His36、Asp43、Gln44が糖結合オウ活性に必須なアミノ酸残基であることが明らかになっているため、次にそれらのアミノ酸残基を含めた周辺の残基をランダムに変異するようにプライマーを設計し、PCRを行って、ランダム変異したCRD1遺伝子を作製した。これらをファージディスプレイ用プラスミドのpLUCKに導入し、CRD1変異体ライブラリーの作製を行なった。現在複数種の動物の赤血球に対して結合能を示すファージを選抜中である。
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