本研究は、溶血活性を示すことが知られるCEL-III(Cucumaria echinata lectin-III)について、1)溶血時の膜貫入・会合体形成ステップへ関与するアミノ酸残基をCEL-IIIの変異体解析により同定してその溶血メカニズムを明らかにするとともに、2)マラリア伝播阻止を目指したトランスジェニック蚊の創製に有効な強力な溶血活性を示す高機能CEL-III分子を選抜し、作製することを目的にしている。 1)CEL-IIIの溶血活性に関与する領域の同定 : 前年度までに構築したCEL-IIIのバキュロウイルス-昆虫細胞による発現系を用いて、CEL-IIIの5箇所の糖結合部位の中で、Ca^<2+>配位に関与するアミノ酸残基(Asp43、Asp141、Asp188、Asp229、Asp276)をAlaに置換することによって、各糖結合部位の糖結合能を消失させた変異体(D43A、D141A、D188A、D229A、D276A)を作製し、その溶血活性を検討した。その結果各変異体はいずれも溶血活性が低下し、なかでもD43AとD229Aに関しては溶血活性が消失していた。さらに、各変異体の糖結合能をBIACOREを用いて解析したところ、糖タンパク質アシアロフェツインへの結合に関する解離定数はいずれも低下していたが、溶血活性が消失しているD43AとD229Aは他の変異体と同程度またはそれより強い糖結合能を有していたことから、糖結合の強さが溶血活性の低下・消失とは関連しないことが明らかになった。以上のことから、CEL-III中の5つの糖結合部位のうちAsp43とAsp229が位置する1α、2βサブドメインへの糖結合がCEL-IIIが溶血活性を発揮するための高次構造変化をおこすトリガーとなることが示唆された。2)CEL-III高機能化 : 前年度構築したCEL-IIIの糖結合ドメイン1の領域のみからなり、糖結合活性に必須なアミノ酸残基であるAsp23、His36、Asp43、Gln44を含めた周辺の残基をランダムに変異した遺伝子産物を提示するファージライブラリーを使って、ウサギ赤血球に対して結合するファージの選抜を行った。その結果、その配列が特定のアミノ酸残基に収束する傾向になることが明らかになり、強い糖結合活性を示す糖結合部位を構築するために必要なアミノ酸配列を推定できた。
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