研究計画に基づき、イカ類の貯精・受精機構に関する以下の調査・実験を行った。 1.マイクロサテライトDNA多型を用いた遺伝マーカーの開発 スルメイカにおいてマイクロサテライト領域を含むゲノム断片の遺伝子配列決定を行い、合計13個の遺伝マーカーを開発した。これらの遺伝マーカーは、対立遺伝子数が4-26個と、非常に変異の多い遺伝子座を特異的に増幅することができる。 2.スルメイカ成熟メスからの貯蔵精子の採集 産卵のための南下回遊ルートに沿って、北海道沖・福島沖・鳥取沖で採集されたスルメイカからメスの体内に貯蔵されている精子塊のサンプルを採集した。その結果、北海道沖ではまだほとんど交接が起こっていないこと、産卵場に近い鳥取沖では多数の精子塊が付着していることから、産卵回遊に伴い精子を貯蓄していく過程が観察された。今後、1で開発した遺伝マーカーを用いてこれら精子塊や飼育下で産卵させた卵の父子判定を行い、メスの交接履歴や回遊に伴う貯精状況の変化を解析する予定である。 3.ヤリイカ産卵場における野外調査 英国ロンドン大学Shaw博士、南アフリカ共和国Sauer博士と共同で、2007年3月北海道松前町のヤリイカ産卵場において野外調査を行った。SCUBA潜水によって産卵状況を調べた結果、海外のヤリイカ類は非常に大きな集団でグループ産卵を行うのに対し、日本のヤリイカは比較的小規模な繁殖集団を形成すると考えられた。また、産み付けられた卵塊および産卵中の親個体とその卵を採集した。今後、それらサンプルを用い遺伝的解析を行う予定である。
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