近年、極域から新たな好冷性細菌が次々と分離されており、世界中でその生化学的機能が精力的に解析されている。その結果、好冷性細菌は一般細菌とは異なる優れた生理機能を有しており極めて有用な生物資源であると認識されるようになってきた。乳酸菌は古くより発酵食品などに深く関与してきた有用微生物であり、プロバイオティクス機能をはじめとする乳酸菌の持つ生理機能が現在注目されている。今後、ますます高まるであろう食のニーズに応えていくには、新しい機能を有した乳酸菌を取得し、それを利用した新しいタイプの機能性食品を開発することが重要であると考えられる。そこで本研究では、南極から好冷性乳酸菌を分離し、発酵スターターとして低温順応型発酵食品の開発に利用するとともに、好冷性乳酸菌由来の好冷性酵素による食品物性の改善に向けた研究を行うことを目的とした。乳酸菌は栄養要求性に富むことから、乳酸菌は一般に宿主となる動植物に付着・寄生して生息している場合が多い。そこで、好冷性乳酸菌の分離源として、昭和基地周辺から採取したボウズハゲギスとコケ類を用いた。分離源を低温条件下で磨砕して生理食塩水に懸濁し、乳酸菌用MRS培地(シクロヘキシミドおよびアジ化ナトリウムを添加)に接種した。ボウズハゲギスは開腹し腸を磨砕して用いた。4℃および10℃で1週間以上培養したが、ボウズハゲギスからは乳酸菌の分離に至らなかった。しかし、コケ類からは枯草菌などの他の好冷性菌の生育が確認でき、有効な好冷性菌の分離源となり得る可能性が示唆された。今回、乳酸菌が分離されなかった原因として、両分離源を南極で採取後、日本に冷凍保存して輸送する間に好冷性乳酸菌が死滅したことが予想された。現在、新たに南極で両分離源を採取後、凍結せずに採取する作業を終了しており、来春より好冷性乳酸菌を分離する予定である。
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