生物活性化合物の特定の原子をほかの元素で置き換えることでその薬理活性を向上させる手法は医薬品開発において重要である。特にフッ素原子の導入により化合物の物性が大きく変化することが知られているため、選択的なフッ素化反応の開発はいろいろな応用研究に役立っと考えられる。本研究では、金属触媒を用いることで化合物にフッ素を効率的に導入する方法を開発し、その不斉触媒化の実現を目的としている。 我々はこれまでに金属触媒に二座配位できる化合物の触媒的不斉フッ素化を中心に成果をあげてきた。本年度は新たにシアノ酢酸エステルやシアノホスホン酸エステルのようなシアノ基だけしか触媒に配位できない単座配位型の化合物も円滑にフッ素化できることを明らかにした。得られる生成物はキラル分割剤として、または酵素阻害剤のリン酸エステルミミック部位として幅広い分野で応用が期待される。しかしながら、これまでのところエナンチオ選択性は最高で80%程度とまだ実用的な段階にない。現在、更なる選択性の向上を目指し、触媒のチューニングを検討中である。 酸性度が低い基質の場合、収率よく目的物を得ることは困難であった。しかしながら、種々検討の結果、ルイス酸と有機塩基を組み合わせて用いることで基質の脱プロトン化が起こり反応が円滑に進行することを見出した。アルコシキカルボニルラクトンやラクタムはこれまでの反応系ではほとんど反応しなかったが、上記の共同触媒系を用いることで反応が進行し、99%eeとほぼ完璧なエナンチオ選択性で目的物が得られることを見出した。更には、活性化が極めて困難なためにこれまで全く報告例のなかったエステル等価体を触媒的にフッ素化するニッケル触媒を見出した。現在、この反応の不斉触媒化を検討中である(投稿準備中)。 また、我々はトリフルオロメチル化も検討している。様々な金属触媒を検討した中で、これまでに報告例のない活性化剤を見出した。この反応の不斉触媒化を検討している。
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