研究概要 |
まず,我々は,当研究室で開発された方法に従い,環状ウレアから3工程でグアニジニウム塩を調製し,塩基と処理することによりグアニジニウムイリドに変換後,各種芳香族アルデヒドと反応させることにより,1-アルキル-3-アリル-2-アジリジンカルボン酸エステルを合成した.ここで,芳香環上の電子豊富なアルデヒドとしてピペロナールを用いた場合,trans体を優先して得た.さらに,光学活性な環状ウレアを用いることにより,相当するキラルアジリジンを調製した.このものに対し,各種還元条件に付し,α-アミノ酸およびβ-アミノ酸の選択的合成の検討を行った.Boc_2O存在下,Adams触媒[Pd(OH)_2]を用いた水素雰囲気下での接触還元においては,予想通り,窒素がBocで保護されたα-アミノ酸を収率97%で得た(研究発表欄参照).一方,金属サマリウムとヨウ素から調製したヨウ化サマリウムを用いた還元反応を検討した.その際,過剰量のヨウ素を用いた場合,α-アミノ酸が優先的に生成した.これは,ヨウ素アニオンがアジリジンのベンジル位を攻撃して開環し,さらに導入されたヨウ素が還元されてα-アミノ酸となったと考えられる.一方,触媒量のヨウ素を用いた系では,エステル部位の一電子還元を伴うβ-アミノ酸の生成が予想されたが,trans体からcis体への異性化反応のみが進行し,結果としてtrans:cis=1:1の混合物を得た.さらに,光学活性体を用いた検討により,この異性化反応はベンジルいに相当するアジリジン3位において進行していることが判明した.この反応は,その部分骨格としてcis-アジリジン部位を有し,抗腫瘍活性を示す天然由来の化合物として知られているマイトマイシンCの合成へと展開できる可能性を示している.
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