本年度は昨年度に引き続き、ヘテロ芳香族化合物に対する新規な反応性の開拓をphenyliodine diacetate(PIDA)とphenyliodine bis(trifiuoroacetate)(PIEA)を中心に用い、検討を行なった。さらに、得られた成果を独自のリサイクル・触媒的利用・不斉反応へと応用することで、環境面や実用性にも配慮した方法論へと発展させた。 1.PIEAを用いるピロール類の2量化反応で、置換基や用いるルイス酸をうまく選択することで、染料やポルフィリン、有機材料の基本骨格に見られるビピロール類の種々位置異性体の作りわけに成功した。また、PIEAによる芳香族化合物の一電子酸化の起こり易さが酸化電位に支配されないことに注目し、メシチレンを求核剤とする効果的な芳香族化合物の酸化的直接クロスカップリング法を開発した。本法は、官能基化や遷移金属触媒による活性化を一切必要としない、類例のない直接的ビアリール合成法である。 2.溶媒効果を利用した、材料科学の領域で有用なジアリールヨードニウム塩型化合物の緩和な条件下、水のみを副産物とする環境調和型新規直接合成法の開発に成功した。 3.超原子価ヨウ素反応剤の活性化剤を種々検討している際に、KBrを用いると芳香環の酸化は起こらず、代わりに飽和C-H結合の酸化が起こる興味深い現象を見出した。本結果を応用し、飽和C-H結合の活性化を含む官能基化を必要としない直接的アリ「ルラクトン類の合成法を開発した。 4.超原子価ヨウ素反応剤の触媒的利用法の概念をさらに展開し、世界で初めてとなる触媒的C-N、およびC-C結合形成反応へと発展させた。また、不斉反応に有望な新規キラル化合物を設計し、フェノール類の高選択的な不斉酸化の実現に成功した。 5.上記の研究に独自に開発した多点型リサイクル反応剤を組み込み、環境対応型の合成反応へと改良を行った。
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