研究概要 |
従来合成されたことの無い、アクア-λ^3-ヨーダンと18-クラウン-6との錯体を合成し、その性質について調べることが目的である。ヨードシルベンゼン(PhIO)は安定で低毒性な環境に優しい酸化剤であるが、水や有機溶媒には溶けず、そのままでは反応性は低い。ところが酸性水溶液にはよく溶け、反応性は向上するが、その構造については長い間不明であった。我々は平成17年度科学研究費補助金により、本来単離することが困難な水中のヨードシルベンゼン単量体の構造を18-クラウン-6との錯体とすることで単離することに成功し、X線結晶解析によりその固体構造を明らかにした。錯体は対アニオンがTfO^-,Tf_2N^-いずれの場合も本質的に同様の構造であり、即ち1分子の水が三価のヨウ素のアピカル位に配位したT字構造(PhI+(OH)…OH_2)に、更に18-クラウン-6の酸素が超原子価結合を形成した四配位平面構造を形成している。また、対アニオンとヨウ素上の水酸基のプロトンとの間には水素結合が形成されている。構造の一般性は、水中では18-クラウン-6の代わりに水が配位した構造をとることを強く示唆している。 溶液中の構造は固体構造と同様に重要であるため、^1HNMRスペクトル等の分光学的手法を用いて精査し、単離した錯体が溶液中でも錯体を形成していること、安定性が溶媒の求核性と良く相関していることを明らかにした(t_<1/2>H_2O>CH_3CN>CHCl_3)。有機合成化学における三価の超原子価ヨウ素化合物の重要性は、近年急速に増大しており、最も基本的な化合物であるヨードシルベンゼンの本質的性質の解明は、新しい超原子価ハロゲン反応剤の設計の基盤となる情報の集積に繋がるため、特に重要である。
|