Type III分泌機構は腸管病原性大腸菌(Enteropathogenic Escherichia coli ; EPEC)などの病原性グラム陰性細菌に固有に存在しており、病原性発現において細菌から病原因子を宿主細胞内へと移行するシステムとして重要な役割を担う。Type III分泌機構を特異的に阻害する化合物は、抗菌性を主体とした従来の抗生物質とは異なり、殺菌せずにEPECや他の病原性グラム陰性細菌の病原性発現を防ぎ、菌交代症や薬剤耐性菌出現の問題を克服した新規抗感染症薬への展開が期待される。 北里研究所では放線菌Streptomyces sp.K01-0509の培養液がType III分泌機構依存的な赤血球溶血作用に対し強力な阻害活性を示したことから、その二次代謝産物の単離、精製が行われ行い、その結果新規天然物として4種のGuadinomine類及びその生合成中間体と予想されるK01-0509 Bが見出された。Guadinomine類はType III分泌機構依存的な赤血球溶血作用に対し強力な阻害活性を示し、Type III分泌機構に特異的な阻害剤として期待される。しかしながら、これらすべては天然からの供給が極微量であることから相対ならびに絶対構造が不明であった。本研究ではこれら化合物についてその不斉全合成を行うことでその絶対構造の決定を試みた。平成18年度においてはその生合成中間体であるK01-0509 B化合物の考えられる4種の立体異性体を不斉全合成し、天然物と比較することでその絶対立体構造を決定した。更にK01-0509 Bより得られた立体情報を元にGuadinomine Cの不斉全合成を行いすべての炭素骨格、官能基を有する化合物のを得ることに成功しているが、合成品は天然物の立体異性体であった。現在のところ、それら結果より天然物Guadinomine Cの絶対構造は2通りにまでに絞り込むことができている。現在天然物の絶対構造決定に向けて、この2種について全合成を進めている。
|