まず、各種ステロイドの水酸基に有機化学的に硫酸基を導入することにより、硫酸エステル標品を得た。それら標品をエレクトロスプレーイオン化(ESI)におけるイオン化特性ならびに低エネルギー衝突誘起解離(CID)によるフラグメンテーションを検討した。 モデル化合物として取り上げたステロイド5種の硫酸エステルは、いずれも脱プロトン化分子を効率良く生成し、注入量5pgでS/N比は11.2〜19.0であった。今回用いたステロイドは、そのままでは極めてイオン化特性が異なるものの、硫酸エステル化は各ステロイドのイオン化特性を均質化し、ESI-MSにおける検出感度のノーマライズが可能であることが判明した。さらに、それらの脱プロトン化分子は、いずれも低エネルギーCIDにおいてm/z97にHSO_4をほぼ単一ピークとして生成した。このことから、硫酸エステル化は、ニュートラルロスあるいはプリカーサースキャンを駆使することにより、特異性向上にも有効であることが示唆された。 ついで、リコンビナントの硫酸転移酵素(SULT2A1)を用い、その誘導体化用機能性試薬としての可能性につき、検討を加えた。 基質としてデヒドロエピアンドロステロン、プレグネノロン、テストステロン、リトコール酸を用い、200μM活性硫酸を含むリン酸ナトリウム緩衝液中SULT2A1と37℃でインキュベートし、、各ステロイドヘの硫酸転移反応につき検討を加えた。その結果、いずれのステロイドを用いても対応する硫酸エステルが生成し、各基質に対する硫酸転移活性の差は35倍の範囲内にあることが判明した。さらに、不溶性担体に固定化したSULT2A1によるデヒドロエピアンドロステロンの誘導体化に検討を加えたところ、10nmolの基質を用いた時、反応時間120分までにステロイドの硫酸化が定量的に準行することが判明した。
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