本年度は生体内投与後を想定し、抗癌剤フルタミド封入脂質微粒子キャリアー(脂質ナノエマルション(LNE))のNa^+イオンや血清アルブミンに対する安定性の向上、および癌細胞における抗癌剤パクリタキセル導入LNEの細胞増殖阻害効果を評価することを目的に研究を行い、以下の成果を得た。 1、補助的界面活性剤を含んでいないフルタミド封入LNE(FT-LNE)の調製直後の平均粒子径は約50nmであるが、ウシ血清中に添加後30分で、その平均粒子径は約100nmにまで増大した。しかし、ショ糖パルミチン酸エステル(SP)を含有したLNEのウシ血清中での平均粒子径は、24時間後でも約60nmであり、SPによりFT-LNEの血清中での安定性は著しく向上した。この結果から、無機イオンによるLNE粒子の凝集の抑制にSPが極めて有用であることを明らかにした。 2、アルブミンによるFT-LNEからのFTの漏出を抑制するため、補助的界面活性剤としてSPおよびコレステロール(CHOL)の検討を^<19>F NMRを用いて行った。その結果、SPと適量のCHOLは協同的に働くことでアルブミンによるFT-LNEからのFT漏出を抑制することを明らかにした。 3、パクリタキセル導入LNE(TXL-LNE)をヒト子宮頸癌由来のHeLa細胞に処置した場合の細胞増殖阻害効果は、TXL単独処置の場合と同等であった。しかし、蛍光プローブを用いた実験結果から、LNEに封入した蛍光物質のHeLa細胞への細胞内移行量は、蛍光物質を単独処置した場合の細胞内移行量よりも顕著に少なかった。従って、TXL-LNEは細胞内への薬物送達性は低いものの、TXL単独処置と同等の作用を有することを明らかにした。
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