ヒトの身体の3分の2は水分子である。つまり、水分子は生物が生きていく上で必須の物質である。体内にある水分子の含量は、生体組織や細胞レベルで巧妙かつ精密に調整されている。細胞は膜によって仕切られているが、膜は疎水性の脂質から構成されているため、基本的には水分子を通さない。そのため、膜の中には水分子を通す「穴」が存在し、その「穴」を介して分子の調整を行っているのである。アクアポリン(AQP)は水分子を選択的に透過する「穴」である。現在までの研究で、AQPは全身に分布しており、ヒトを含めた哺乳類には13種類のAQPが存在することが知られている。また、いくつかのAQPは水分子だけでなく、ガス分子、グリセロールなども通すことも示唆されている。しかし、AQPの選択的分子透過の制御機構に関しては未だ謎の部分が多い。そこで、理論化学的手法を用いて、AQPの選択的分子制御機構について解明することを研究の主な目的とした。 本研究では、身体の様々な部位に存在するアクアポリン-1(AQP1)を対象とした。まず、AQP1の結晶解析構造(PDB entry:1J4N)をPOPEで構成された脂質二重膜に埋め込み、水分子(TIP3P)を発生させ、一辺が約110Åの立方体セルを構築した。このセルについて、温度(310K)、圧力(1atom)一定(NPT)の周期境界条件下の平衡化状態の分子動力学(MD)計算を行った。遠距離からの寄与はParticle Mesh Ewald(PME)法により計算した。計算プログラムはamber8を用いた。 MD計算の結果、AQPの選択的分子制御機構の一端を解明することが出来た。また、これらの研究に先行してLBPA膜に関する研究を生化学的実験研究者と共同で行い、その成果は学術誌に掲載された。
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