本年度は、種々の手法を用いたCYP分子(主にCYP2C9)の電極界面上への固定化の検討とその評価を行った。固定化手法により大別して以下の3種に分類した。1)脂質膜を利用した方法、2)共有結合を利用した方法、3)静電的相互作用を利用した方法。1)の脂質膜を利用したCYP固定化電極は、酸素非存在下での電気化学挙動において一対のピーク電流を持つ電気化学応答を示し、電極-CYP問の迅速な電子移動を起こすことに成功した。また、酸素添加により還元電流値が増大したことから、電極→CYP→酸素分子へと電子が受け渡され、CYPが触媒となり酸素を還元したことが確認された。しかしながら、薬物添加による電気化学応答の変化は観測されず、薬物代謝活性を評価することはできなかった。2)の共有結合を利用した固定化では、電極界面をアミノ基、カルボキシル基やマレイミド基等で修飾しこれらの官能基とCYP分子表面のカルボキシル基、アミノ基およびチオール基との共有結合による固定化を試みた。いずれの場合も固定化量は10^<-13>mol/cm^2以下のオーダーと非常に少なかったものの固定化を確認でき、いくつかのケースにおいては薬物を添加するとその濃度に応じた代謝応答を観測することができた(しかしながら代謝速度は3)の手法に比べると小さかった)。3)の静電的相互作用を利用した固定化では、電極界面をプラス電荷およびマイナス電荷を持つ分子で作成した混合薄膜やカチオン性またはアニオン性のポリイオン分子薄膜で修飾し、これらを電極界面とCYP分子との静電的なバインダーとする固定化を試みた。様々な固定化条件を検討した結果、カチオン性のポリイオン分子を用いた場合にCYP分子が電子移動および薬物結合に適した配向で固定されることを見出し、電極を電子供給源とした薬物代謝反応もスムースに進行することが明らかになった(投稿準備中)。
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