本研究では、神経細胞傷害時における神経-細胞外マトリックス(ECM)-グリア間相互作用の役割とその分子機構の解明を目的としており、まず今年度は、その中でも神経-ECM間相互作用に着目し、神経細胞傷害時におけるECM発現変化に関して検討した。実験には、生後2-3日齢ラットの大脳皮質-線条体領域より作製したスライス培養系を用いた。免疫組織学的検討から、培養10日目の培養スライスにおいて、ラミニンに対する染色は、神経細胞のマーカーであるNeuNに対する染色や血管内皮細胞のマーカーであるvon Willebrand factorに対する染色との重なりを示した。また、フィブロネクチンについては、血管内皮細胞様染色がわずかに認められる程度であった。NMDA(50μM)による神経細胞傷害後、ラミニン免疫反応性は顕著に減少した。一方で、フィブロネクチンに関しては、NMDA処置後もその免疫反応性に変化は認められなかった。さらに、ECMの分解に関与する細胞外マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性変化を、ゼラチンザイモグラフイーを用いて検討した。その結果、NMDAによる神経細胞傷害によって、MMP-9活性はNMDA処置数時間後から一過性に上昇し、48時間後には元のレベルにまで戻ることが明らかとなった。これらのことから、脳スライス培養系では、神経細胞傷害後、神経-ECM間情報伝達を介してラミニンなどの細胞外マトリックス環境が変化すること、またそれらの分解に関与するMMP-9などの酵素活性も変化すること示された。
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