これまで筆者は、プロスタグランジンE2(PGE2)受容体EP2あるいはEP4サブタイプを発現させたHEK293細胞のモデルシステムを用いて、PGE2刺激による受容体の細胞内情報伝達系を明らかにし、大腸癌発現のメカニズムを示唆して来た。また、ヒト結腸癌細胞株LS174T細胞において、プロスタグランジンE2(PGE2)刺激による細胞増殖、細胞移動にEP4受容体の関与などが報告されていることから、モデルシステムで得られた結果を踏まえ、実際の癌細胞であるLS174T細胞の情報伝達系を明らかにする事を目的とし研究を行っている。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の長期服用により、大腸癌による死亡率が40〜50%低値を示す事や、家族性大腸腺腫症患者のポリープの大きさが、NSAIDにより有意に減少する事が知られている。今回我々はLS174T細胞をPGE2で刺激することでセカンドメッセンジャーであるcAMPが産生されることを確認した。このcAMP産生を正に調節しているPGE2受容体は主にGsに共役しているEP2あるいはEP4受容体であることが考えられる。そこでRT-PCR法を用いてLS174T細胞に発現しているEP受容体サブタイプを確認したところ、EP4受容体ではなく、EP2受容体のmRNA発現が確認された。このことから、LS174T細胞はEP2受容体刺激を介して、cAMP産生を増強している事が示された。また、このPGE2刺激によるcAMP産生は、NSAIDの一つであるインドメタシン前処理により抑制される事が明らかとなった。さらに、このインドメタシン前処理により、プロスタノイド生成過程の前駆物質であるアラキドン酸(AA)のLS174T細胞への取り込みが阻害される事も見いだされた。インドメタシンによるシクロオキシゲナーゼ(COX)抑制作用とAAの取り込み抑制作用との関連の解明も今後進めて行く予定である。またAAは生体膜のグリセロリン脂質の構成成分である事から、細胞膜のリモデリングが、EP2受容体の細胞内情報伝達系を調製している可能性が示唆され、今後さらなる検討を行い癌化への機序を解明して行きたいと考えている。
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