非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の長期服用により、大腸癌による死亡率が40〜50%低値を示す事や、家族性大腸腺腫症患者のポリープの大きさが、NSAIDにより有意に減少する事が知られている。前回我々はLS174T細胞をPGE2で刺激することでセカンドメッセンジャーであるcAMPが産生されることを確認した。このcAMP産生を正に調節しているPGE2受容体は主にGsに共役しているEP2あるいはEP4受容体であることが考えられる。そこでRT-PCR法を用いてLS174T細胞に発現しているEP受容体サブタイプを確認したところ、EP4受容体ではなく、EP2受容体のmRNA発現が確認された。このことから、LS174T細胞はEP2受容体刺激を介して、cAMP産生を増強している事が示された。また、このPGE2刺激によるcAMP産生は、NSAIDの一つであるインドメタシン前処理により抑制される事を明らかにした。さらに、このcAMPの産生抑制は、インドメタシン処理によるEP2受容体の発現が減少することに起因する事も明らかにし、学術論文として報告した(Biochem. Biophys. Res. Commun. (2007) 359:568)。NSAIDの作用機序としてCOX活性抑制によるPGE_2産生量の減少が、cAMPなどのセカンドメッセンジャー産生を始めとする情報伝達系の活性化抑制の原因であると考えられている。しかしながら、細胞表面の受容体絶対量が減少すると言う事は、細胞外のPGE_2濃度に関わらず細胞内情報伝達系の活性抑制が起こりうる事を示唆している。これらのことから、癌化の進行あるいは改善には、従来のCOX/プロスタノイドの産生量の調節だけではなく、プロスタノイド受容体の発現調節も重要な因子である可能性が示唆された。
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