研究代表者らが作製したPACAP遺伝子欠損マウス(PACAP-KO)は、概日リズム位相の前進性/後退性光同調のうち前者を特異的に障害する唯一の動物である。本研究では、際立った異常表現型を示すPACAP-KOと各種先端技術の活用をアドバンテージとして、"位相前進性の光同調"に特異的に関わる新規分子を同定し、その視交叉上核(SCN)での機能解析により、光同調の分子基盤の解明を目指すことを目的として計画・実施し、平成18年度は以下の成果を得た。 1)SCN特異的な網羅的遺伝子発現解析を完了させ、バイオインフォマティクス解析から位相前進性光同調に関与するクラスターを明らかにした。 2)高純度SCNサンプルを用いた定量的RT-PCR解析から、これらクラスターに属する遺伝子のいくつかについて、光依存的発現誘導の再確認を行った。 3)更に位相後退時における発現解析から、1つの遺伝子が野生型、PACAP-KOともに光依存的発現誘導を示さないことを見出し、本遺伝子が生体の位相前進性光同調に特異的に関与する最有力候補であることを示唆した。またこれらの発見により特許出願を行った。 4)Per1-lucトランスジェニックマウス由来のSCNを用いたin vitroリズム解析系を構築した。更にPACAP-KOとの交雑で得たダブルミュータント由来のSCNを用いた検討により、PACAP-KOのSCNでは野生型とほぼ同等の周期および振幅を保持した概日リズムが認められることを明らかにした。 5)明暗および恒暗条件において、PACAP-KOでは暗期移行時に認められる活動増加が、暗期移行の2時間前から先行して認められることを見出した。一方でSCNにおけるPer1、Prok2等の概日発現リズムには全く変化が認められないことを明らかにし、本機能の制御においても既知の光同調制御機構とは異なる分子機構が存在することを示唆した。
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