D-アスパラギン酸(D-Asp)、N-メチルーD-AspおよびD-グルタミン酸といった酸性D-アミノ酸を立体特異的に分解する生体内酸化酵素として、D-アスパラギン酸オキシダーゼ(DDO)が知られている。ホモロジーモデリング法により構築したマウスDDOの推測三次元構造より活性部位に位置することが予測されたSer-308残基に着目し、この残基の側鎖の水酸基が持つ役割を解明することを目的として、site-directed mutagenesisによるマウスDDOの変異体解析を行った。 Ser-308残基がGly、AlaあるいはTyrに置換されたマウスDDOをGST、HisおよびSタグがN末に付加された融合蛋白質として大腸菌で発現させ、アフィニティークロマトグラフィーにより精製した。各変異体の酵素学的機能を調べた結果、側鎖に水酸基を持たないGly-308およびAla-308変異体のD-AspおよびN-メチル-D-Aspに対する触媒効率は野生型酵素と比較して有意に上昇しており、また、補酵素FADに対する親和性も上昇していた。一方、野生型酵素と同様に側鎖に水酸基を持つTyr-308変異体は、D-AspおよびN-メチル-D-Aspに対する触媒効率、および補酵素FADに対する親和性が有意に低下していた。Gly-308変異体に関しては、HisタグのみがN末に付加された融合蛋白質を用いた解析も行い、同様の結果が得られることを確認した。 本研究結果より、Ser-308残基がマウスDDOの機能発現に関与する重要なアミノ酸残基であることが明らかになった。また、この残基の側鎖の水酸基は、反応速度、基質との結合、およびFADとの結合に対して抑制的に機能していることが示唆された。
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