前年度本研究課題により、in vivo脳虚血モデルにおいて梗塞部位にPGE2合成酵素(mPGES-1)が発現誘導すること、また、mPGES-1遺伝子欠損マウス脳虚血モデルにおいて梗塞障害の改善が認められた。そこでmPGES-1による虚血性細胞死憎悪機序を詳細に検討するため、培養海馬切片のグルタミン酸による興奮毒性にて評価した。グルタミン酸刺激により、mPGSE-1のmRNA及び蛋白質の顕著な発現上昇が認められ、同様にPGE2産生が認められた。mPGSE-1の活性阻害薬(MK-886)は、PGE2産生とPGES活性を有意に抑制しただけでなく、この時の興奮毒性をも有意且つ顕著に抑制した。さらに、mPGES-1欠損マウスの海馬切片にて同様の検討を行ったところ、野生型マウスの海馬切片で見られるグルタミン酸による神経細胞死は、mPGSE-1欠損マウス切片では有意に減弱した。さらに、mPGES-1の下流の細胞毒性機序を調べるため、EP受容体の関与を調べた。EP1-4受容体アンタゴニストのうち、EP3アンタゴニストのみ、グルタミン酸毒性を有意且つ濃度依存的に抑制した。また、EP3アゴニストは単独では毒性作用を示さなかったが、グルタミン酸毒性を濃度依存的に憎悪した。EP3アゴニストによるグルタミン酸毒性憎悪作用は、Rhoキナーゼ阻害薬及びGi阻害薬により、有意に抑制された。従って、脳虚血時に過剰放出されるグルタミン酸刺激によりmPGES-1が発現誘導しPGE_2を産生し、これがEP3受容体に作用することで、Giの活性化Rhoキナーゼの活性化を介し、神経死細胞死を促進することが示唆された。本研究はmPGES-1の脳梗塞障害増悪機序の解析だけでなく、脳梗塞の新たな薬物治療のターゲットの開発にも貢献できると期待される。
|