本研究では、本研究者らが発見したWnt細胞内情報伝達経路を抑制する新規タンパク「ちび」の癌化との関連およびその分子メカニズムを明らかとすることを目的に解析を行った。細胞間シグナル伝達を制御するWnt蛋白は高度に保存されたファミリーを形成しており、様々な形態形成に重要であるばかりでなく、Wnt経路が恒常的に活性化されると癌化をひきおこす。近年、我々はWnt経路の主要な転写因子β-カテニンと結合しWnt経路を抑制する新規核蛋白「ちび」を同定した。「ちび」はβ-カテニンの転写活性を抑制することから、正常細胞において癌抑制因子として機能する可能性が考えられる。本年度では、「ちび」が癌抑制因子である可能性を検討した。まず、ヒト乳癌由来培養細胞で「ちび」の発現量が減少しているかどうか検討した。しかし、検討した11種すべての培養細胞で「ちび」の発現レベルは、顕著な減少は見られなかった。そこで、「ちび」遺伝子に変異が入り、蛋白として抑制活性が低下している可能性を考え、これらすべての培養細胞から抽出したRNAからcDNAを作成し、シークエンスを行った。その結果、435番目のTがCへと置換されたsilent polymorphismのみが検出され、アミノ酸レベルでの置換は検出されなかった。これらの結果から、ヒト乳癌では「ちび」は癌抑制因子として機能していない可能性が高いと考えられる。現在までのところマイクロアレーを用いた解析により、甲状腺癌や子宮癌組織で「ちび」の発現量が正常組織と比べ著しく低下しているというデータが得られている。甲状腺、子宮は、「ちび」が癌抑制因子として働く組織の有力な候補と考えられ、今後は、これらの癌組織、そして対応する癌組織由来培養細胞で、「ちび」蛋白の解析を続けて行う。また、Hedgehog経路での「ちび」の機能も現在解析をおこなっている。
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