ホウ素クラスター、カルボランは球状の疎水性分子表面を有する構造化学的に興味のある化合物であるが、これまで、その物理的、化学的特性を積極的に生かした応用は限定的であった。本研究者らは本化合物を受容体に適合する疎水性構造として応用した初の試みを行い、強力な活性を有するエストロゲン受容体リガンドを得ている。本研究は、カルボランの疎水性による形状認識、C-Hの水素結合性を単純な系で評価することにより、受容体-リガンド相互作用の本質を追求するとともに、新規の機能性分子の設計、合成に応用しようとするものである。18年度は上記のコンセプトによる分子設計、合成、物性評価を行い、次の成果を得た。 1)カルボラニルフェノールの置換位置によるエストロゲン活性の大幅な変化から、カルボランC-Hの極性置換基としての水素結合性を推測し、水素結合を評価しうる系として、ο-ヒドロキシフェニル誘導体を設計し、NMRによる水素結合性の評価を行い、大きな化学シフトの変化、すなわち、水素結合の存在を確認した。また、X線結晶解析によってもその事実は裏付けられた 2)。薬物-受容体が低分子-生体内高分子の相互作用であるのに対し、機能性材料である液晶は同分子による分子間相互作用が物性の基盤である。カルボランの形状を液晶分子中の剛直な構造として利用した種々の化合物を合成し、液晶性の評価を行った。その結果ベンゼンや炭化水素系を構造要素とする場合に比べネマティック液晶の性質が高まることが見出された。
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