正二十面体構造を有するカルボランは、高いホウ素含有率から中性子補足療法への応用が盛んに研究されてきたが、その他の化学的、物理的性質にはほとんど目が向けられていなかった。本研究者は、カルボランの高い疎水性に着目し核内受容体リガンドの疎水性構造単位として応用し、様々な核内受容体を標的とし従来のリガンドの活性を凌駕する化合物を見出し、カルボランの利用に新たな方向性を提示した。本研究は、カルボランが有するもう一つの特徴であるC-H水素の高い酸性に着目し、溶液中における水素結合能を評価し実践的応用としてカルボランC-H水素をトリガーとする機能性分子の設計及び合成を目的としている。今年度は、昨年度合成、評価した化合物が有するC-H水素の相互作用能を機能性分子構築に応用した。また、得られた結果から新たな機能性分子設計を行い次に示す結果を得た。 1、様々な2-methoxyphenyl-carboranesの構造を利用し、溶液中での水素結合能の評価と水素結合エネルギーの算出を行い、それぞれの化合物の物性によって液性依存的な分子モーター、新規メカニズムによる脱メチル化反応、π-πスタッキングと疎水性相互作用を用いた分子集合体などを創り分けることに成功した。 2、カルボラン誘導体とシクロデキストリンの水中における相互作用を評価し、カルボランC-Hの水素結合能がシクロデキストリンによる包接能に大きく関与することを見出した。 3、トリカルボラン誘導体が疎水性環境でC1イオンを補足するという結果を見出し、脂質二重膜を利用した実験により本化合物がC1イオンチャネルとして機能することを見出した。
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