我々は選択的な蛋白質の分解系であるユビキチン・プロテアソーム(UP)システムがメチル水銀毒性の発現調節に重要な役割を果たしていることを示してきた。最近、UPシステムによる蛋白質分解を抑制する因子であるRad23の高発現が酵母にメチル水銀耐性を与えることを見出したことから、本年度は、Rad23によって分解が抑制され、かつ、メチル水銀毒性軽減作用を有する蛋白質の検索を行った。まず、Rad23と結合する蛋白質として9種が報告されていたので、それらについて検討したところ、Ddi1、Ufd2またはPng1を高発現させ牟酵母がメチル水銀に対して耐性を示すことが判明した。これら3種の蛋白質のうち、本年度は、Png1について詳細な検討を行った。まず、Rad23の高発現が細胞内のPng1レベルに与える影響を検討したところ、顕著な増加が認められた。Cycloheximide処理によって正常酵母の細胞内Png1レベルは経時的に減少したが、このPng1の分解はRad23の高発現によって著しく遅延した。また、Png1が細胞内でユビキチン化を受けることも確認された。以上の結果、Png1は通常はUPシステムによって分解されるが、Rad23が高発現するとその分解が抑制され、Png1が示すメチル水銀毒性軽減作用が十分に発揮されるために酵母がメチル水銀耐性を示すものと考えられる。Png1は蛋白質の脱N-グリコシル化を触媒する酵素(PNGase)であるが、脱N-グリコシル化活性に必要な領域を欠失させた変異Png1を高発現させた酵母はメチル水銀耐性を示さなかった。このことから、Png1が有するPNGase活性がメチル水銀毒性の軽減に関与していると考えられる。
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