環境汚染物質であるダイオキシン類の毒性発現には、細胞の可溶性画分に存在する芳香族炭化水素レセプター(AhR)の活性化が必須であると考えられている。申請者らは、ダイオキシン類の毒性軽減を目的として、70kDa熱ショックタンパク質(HSP70)によるAhR活性化制御の可能性について検討した。初めに、HSP70過剰発現細胞を構築するため、プロテアソーム阻害剤であるN-acetyl-leucyl-leucyl-norleucinal(ALLN)をT47細胞に添加し、HSP70の発現量を観察した。その結果、未処理細胞に比べ最大50倍程度の誘導が細胞毒性を伴うことなく観察された。そこで、ALLN処理したT47D細胞に、AhRのリガンドの1つである3-メチルコランスレンを処理し、レセプターの活性化に対する影響を観察した。その結果、AhR依存的に誘導されることが知られているcytochrome P450 1A subfamilyの活性の上昇が、ALLN処理により有意に低下することが明らかとなった。また、細胞染色、並びにイムノブロット解析の結果から、AhRの核内への蓄積がALLN処理により増加する傾向にあることも明らかとなった。前述のように、ALLN処理によりHSP70が過剰発現していることから、この現象は、HSP70の過剰発現状態が引き起こしたものと予想される。しかし、ALLNはプロテアソーム阻害剤でもあることから、その作用が影響を及ぼした可能性も否めない。また、タンパク質レベルでの発現抑制がどのような機構によるものなのかについても不明な点が多い。そこで、来年度は当初の予定通り、分子生物学的な手法を用いて、HSP70過剰発現とAhR転写活性化制御との関連性について検討を行う予定である。
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