研究概要 |
本研究の目的は,ヒ素によって引き起こされる血管内皮細胞および血管平滑筋細胞の機能障害とこれらの細胞のプロテオグリカン産生がヒ素によってどのように変化するのかという点を明らかにすることである。平成18年度は,血管内皮細胞および血管平滑筋細胞の培養系を用い,以下の知見を得た。 高細胞密度の血管平滑筋細胞において,10μMの亜ヒ酸は細胞層に蓄積したプロテオグリカンへの[^<35>S]硫酸の取り込みを有意に減少させた。低細胞密度な血管平滑筋細胞の細胞層においても10μMの亜ヒ酸による[^<35>S]硫酸の取り込みの減少が認められたが,培地に蓄積したプロテオグリカンへの[^<35>S]硫酸の取り込みは2μM以上の亜ヒ酸により顕著に減少していた。このとき,非特異的な細胞傷害性の指標である細胞層から培地中に逸脱した乳酸脱水素酵素の活性に有意な変化は認められなかった。一方,五価の無機ヒ素であるヒ酸は,血管平滑筋細胞が産生するプロテオグリカンへの[^<35>S]硫酸の取り込みに影響を及ぼさなかった。これらの結果から,三価の無機ヒ素である亜ヒ酸が血管平滑筋細胞のプロテオグリカン合成を非特異的な細胞傷害性を伴うことなく阻害すること,およびその阻害作用は細胞密度が低い時により強く現れることが示唆された。 また,ヒ素の血管毒性を修飾し得る金属イオンの検索を試みたところ,血管内皮細胞において,亜ヒ酸による非特異的な細胞毒性がビスマスにより軽減されることを見出した。 さらに,血管内皮細胞は血管内腔を一層で覆っている細胞であり,これが傷害された場合には速やかな傷害部位の修復が血管病変の防御に重要であるが,非特異的な細胞傷害性を示さない濃度の亜ヒ酸が傷害された内皮細胞層の修復過程を阻害することが明らかとなった。
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