本研究の目的は、血管構成細胞のプロテオグリカン合成に対するヒ素の作用を明らかにし、プロテオグリカンの代謝異常の観点からヒ素による血管毒性発現メカニズムにアプローチしようとするものである。平成18年度は亜ヒ酸が血管内皮細胞および血管平滑筋細胞のプロテオグリカン合成を非選択的に阻害することを見いだし、平成19年度にはビスマスが血管内皮細胞に対する亜ヒ酸のプロテオグリカン合成阻害作用を軽減する特異な無機イオンであることを見いだした。平成20年度は、ビスマスによる毒性軽減機構の解明並びにヒ素の血管毒性とメタロチオネイン(MT)の関与について検討を行った。 血管内皮細胞に亜ヒ酸とビスマスを曝露させたところ、ヒ素の細胞内蓄積量がビスマスの共存によって有意に減少することが認められた。ビスマスの細胞内蓄積量も亜ヒ酸が共存することで減少した。生体防御因子であるMTはヒ素の毒性軽減に関与することが示されている。そこで、リアルタイムRT-PCRによってMTのmRNA量を測定したところ、亜ヒ酸によるMT mRNA量の増加が認められたが、ビスマス処理によるMT mRNA量の有意な変化は認められなかった。したがって、亜ヒ酸毒性に対するビスマスの軽減効果に亜ヒ酸の細胞内蓄積量の減少が一部関与することが示唆された。また血管内皮細胞を用い、亜ヒ酸の細胞毒性に対する抗血小板治療薬シロスタゾールの作用を検討したところ、シロスタゾール前処理によって亜ヒ酸の細胞毒性が軽減することが示された。さらに、カドミウムの細胞毒性もシロスタゾール前処理により軽減されることが認められた。また、シロスタゾールはMT mRNA量とタンパク質量をともに増加させることが認められた。以上の結果より、シロスタゾールが亜ヒ酸やカドミウムの血管毒性を軽減すること並びにその毒性軽減効果に血管内皮細胞のMT誘導が関与することが示唆された。
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