進行癌患者の約70%に癌性疼痛が出現するといわれている。しかし、オピオイド感受性の個人差が大きいこと、適正使用のための基礎的エビデンスが少ないことから、有効かつ安全な疼痛治療がなされていない。本研究は、ヒト変異型(A118G)μオピオイド受容体(MOR)遺伝子発現マウスを作製し、オピオイド感受性個人差のモデルとして確立させることで、個々の患者遺伝情報に基づいた適切なオピオイド疼痛治療法確立の為の基礎的エビデンスを得ることを目的とする。 研究代表者(畑)の所属機関の変更(東北大学から昭和大学へ)に伴い、本年度は研究環境の整備に時間を要した。本年度の研究実績は以下の通りである。 1.昭和大学動物実験委員会、遺伝子組換え実験安全委員会への承認手続き。 2.Human MOR cDNAコンストラクトの入手(北海道大学南教授、東北大学曽良教授より譲受)。 3.ターゲティングベクターの設計;ノックインマウス作製用ターゲティングベクターの具体的な設計図を作製した。マウスゲノム上MOR遺伝子exonlの開始コドンにhuman MOR cDNAと転写を止めるためのSV40 poly Aを挿入する。さらにその下流には、コンディショナルターゲティングCre/loxPシステムを利用するためのloxp-Neo-loxpカセットを挿入するよう設計した。 4.オキシコドン、フェンタニルの鎮痛効果、腸管運動抑制作用発現関連遺伝子の同定;オキシコドン、フェンタニルのin vivoにおける作用機序は未だ不明な点が残されている。MOR欠損マウスを用いて、オキシコドン、フェンタニルの鎮痛作用(Hot plate法、Tail flick法)ならびに有害作用である腸管運動抑制作用(Arabic gum法)の発現を検討したところ、どちらの作用もMOR欠損マウスにおいて消失していた。このことより、モルヒネ同様、オキシコドン、フェンタニルの鎮痛効果・腸管運動抑制作用発現へのMOR遺伝子の寄与が示された。
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