研究概要 |
癌の化学療法においては、制癌剤に対する反応性や副作用発現の程度には個人差が認められる。したがって、癌の化学療法の効果を向上させるためには治療の個別化(テーラーメイド治療)の実現が必須であり、そのためには個々の制癌剤に対する感受性を決定する遺伝子群の解析が不可欠となる。本研究では、siRNAライブラリーを利用して、発現抑制(ノックダウン)することによって制癌剤(アドリアマイシン)感受性に影響を与える遺伝子群の網羅的スクリーニング方法を確立した。まず、レンチウイルス感染法を用いて、約50,000種のヒト遺伝子のmRNAを標的にしたsiRNAライブラリーをヒト胎児腎由来HEK293細胞に導入した。このsiRNAライブラリー導入細胞を半数致死濃度のアドリアマイシン存在下で培養し、生き残った細胞からtotal RNAを抽出した。次に、得られたtotal RNAの逆転写産物を鋳型として、siRNA配列部分を特異的に増幅するプライマーを用いてPCRを行った。このPCR産物をプローブとしてマイクロアレイ解析を行い、アドリアマイシン処理によって変動がみられた遺伝子群を選出した。特に高い変動率を示した遺伝子群を着目し、それらの遺伝子をターゲットとするsiRNAをHEK293細胞に導入し、アドリアマイシン感受性を検討した。その結果、発現抑制によって細胞にアドリアマイシン耐性を与える因子としてZNF452、発現抑制によって細胞にアドリアマイシン高感受性を与える因子としてKCNT1,STEAP3を同定することに成功した。これらの因子は全てアドリアマイシン毒性との関係について示唆されたことのないものであった。したがって、本研究で構築したスクリーニング方法を用いれば、未知の制癌剤感受性決定因子の同定が可能であり、制癌剤感受性の個人差決定機構の解明研究に大きな発展をもたらすものと期待される。
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