薬分子の代謝に関しては汎用される従来のドッキングによる手法では、薬物と代謝酵素の相互作用の予測において、1)有限温度における相互作用構造の予測、2)複数種の代謝酵素のうち主代謝酵素となる酵素の予測、3)薬1分子と酵素1分子の相互作用ではなく実際の濃度・発現量を考慮した相互作用予測、が課題であった。本研究では、無機・有機各種材料系への応用の実績のあるグランドカノニカルモンテカルロシミュレータの活用、不均一サイトヘの単成分吸着の概念応用に基づき主代謝酵素予測ツールの開発することおよび開発手法を具体的にヒト代謝特性予測に応用することを目的とした。 このうち平成18年度は、技術シーズとしたグランドカノニカルモンテカルロプログラムに、薬分子-酵素間の相互作用の効率的評価のための、1)モンテカルロの複数試行を1回で行う試行粗視化機能、2)安定配位構造探索において活性部位近傍のみを詳細に考慮する近接配位構造試行機能を追加開発した。主代謝酵素の予測の課題に関しては、定式化済みであった不均一サイトヘの単成分吸着プロセスに関して、定量的に評価可能なツールを実装し、相互作用エネルギーに基づき、酵素発現量、薬物濃度に基づき主代謝酵素の予測を可能とした。さらには、開発した上記の二つの手法を活用することで、CYP3A4とCYP2C9を薬物代謝酵素として考慮した主代謝酵素予測を複数の薬分子に対して行った。予測された主代謝酵素は、既報の主代謝酵素と一致しており、主代謝酵素の予測手法としてのプロトタイプ開発に成功したと結論づけられた。
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