薬物による胎児毒性は、薬物療法において、最も注意すべき有害反応の一つである。しかし、臨床で使用されている医薬品の多くは、ヒトでの胎児移行性は不明であり、妊婦への安全性が保証されていない。従って、薬物のヒト胎盤透過のin vivo動態予測は極めて重要な課題である。そこで本研究では、胎盤における薬物輸送を担う分子基盤を明らかにし、その上でヒト胎盤灌流実験から薬物の経胎盤輸送の分子機構、ならびにヒトにおける薬物の胎児移行性のin vivo動態を予測することを目的とした。本年度は、研究計画にそって、ヒト胎盤における薬物輸送担体の発現解析とヒト胎盤由来細胞を用いた輸送機能解析を行った。その結果、ヒト胎盤から単離したトロホブラスト細胞には有機アニオントランスポーターであるPGT、OATP-B、OATP-D、OATP-Eが発現していることが確認された。また、単離トロホブラスト細胞による温度依存的なestrone-3-sulfateの取り込みは濃度依存的であり、その親和性はOATPsやOATsによるestrone-3-sulfate輸送の親和性と近かった。したがって、トロホブラスト細胞によるestrone-3-sulfateの取り込みの少なくとも一部には、OATPsやOATsが関与していることが示唆された。さらに、単離トロホブラスト細胞と絨毛癌由来培養細胞ではOATPsの発現プロファイルが異なっていたことから、単離トロホブラスト細胞を用いた実験系の有用性が示唆された。
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