医薬品の多くは、ヒトでの胎児移行性は不明であり妊婦への安全性が保証されていない。SSRIであるパロキセチンは妊婦中の抗うつに使用されているものの、パロキセチン服用中の母親から生まれた新生児が中毒症状もしくは退薬症状を呈した例も複数報告されている。そこで本年度は、ヒト胎盤灌流法を用いて、パロキセチンの胎盤透過動態を解明することを目的とした。その結果、ヒト正常満期胎盤を用いての母体側灌流液へのパロキセチン添加時、パロキセチンの胎児側静脈、母体側静脈中灌流液中濃度は共に60分間の灌流中、上昇を続けた。また、母体側灌流液を薬物の含まれない灌流液に切り替えたときパロキセチンの消失は非常に遅く、母体側へのパロキセチンの流出は二相性を示すころが明らかになった(半減期はそれぞれ4.93分、108分)。また、実験終了後の胎盤組織中パロキセチン濃度は非常に高く、組織への蓄積性があることが分かった。これら胎盤灌流実験の結果は、いずれも新たに構築した単一の薬物動態学的モデルによって良好に表現できた。このモデルを用いて、母親がパロキセチンを服用した場合の胎児濃度推移をシミュレーションすることができた。以上のように、本研究ではパロキセチンを様々なプロトコルで灌流することによって、パロキセチンの胎盤透過の特性を明らかにするとともに、構築したモデルによって母体血中濃度から胎児における濃度を予測することが可能となった。これは今後胎児におけるパロキセチンの濃度と毒性との関係を解明するにあたって有用な情報になると考える。
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