中枢痙攣誘発性物質であるグアニジノ化合物は、急性てんかん発作、尿毒症、エイズ発症性痴呆、脳腫瘍などにおいて脳内又は脳脊髄液中に蓄積することが知られている。そこで、グアニジノ化合物による神経障害を回避する為には、脳内から効率的に痙攣誘発性物質を除去することが最も合理的な戦略である。本研究課題では、「脳関門は、痙攣誘発性物質グアニジノ化合物を脳内から排出輸送する分子機構を備え、中枢障害回避機構として機能している」ことを実証することを目的とする。グアニジノ化合物の一つであるグアニジノ酢酸は、エネルギー貯蔵物質であるクレアチン生合成の前駆体としてだけでなく痙攣誘発性物質として知られている。グアニジノ酢酸はラット脳室内投与後、半減期1.5分で脳脊髄液中から消失した。さらにクレアチントランスポーター(CRT)の基質であるクレアチンによって有意に阻害されたことから、血液脳脊髄液関門における能動的な排出機構の寄与が示唆された。CRT cRNAを注入したアフリカツメガエル卵母細胞を用いた[^<14>C]グアニジノ酢酸の取り込みは、濃度依存性(Km:269μM)を示し、2mMクレアチン、γ-グアニジノブチル酸、β-グアニジノプロピオン酸で有意に阻害された。免疫組織化学的解析から、CRTは脈絡叢上皮細胞に局在していることが示された。以上の結果から、グアニジノ酢酸は血液脳脊髄液関門におけるCRTを介して脳脊髄液中から除去されていることが示唆された。血液脳脊髄液関門におけるグアニジノ酢酸排出機構は、グアニジノ酢酸の脳内蓄積を回避するために脳脊髄液中から内因的な痙攣誘発性物質を積極的に除去するという中枢防御システムとしての役割を担っている可能性が高い。
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