本研究では、神経新生に対するグルタメイト受容体による制御機構を明らかにするため、マウス海馬由来培養神経系前駆細胞の増殖に対するN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体グリシン結合部位特異的阻害薬であるSM31900の影響について解析した。 胎生15日齢マウス脳内から海馬を単離し、酵素処理後、得られた細胞懸濁液についてDMEM/F12を基本とする塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および上皮細胞増殖因子(EGF)を添加した培地で9日間培養を行った。SM31900は培養直後から添加し9日間暴露した。また、培養神経系前駆細胞の増殖能はMTT assayおよびneurosphere assayにより解析した。Neurosphere assayでは、培養過程で形成されたneurosphere数および大きさを測定した。さらに、継代培養した細胞を用いて、細胞障害に対するSM31900の影響をHoechst 33342染色により解析した。 マウス脳内海馬から調整した細胞をbFGFおよびEGF存在下で培養したところ、neurosphereの形成が観察された。同実験条件下で、培養初期からifenprodilを液体培地に添加したところ、培養2日目からMTT還元能の有意な減少が認められ、その減少は9日目まで持続した。さらに、培養9日目でneurosphere assayを行ったところ、SM31900暴露群では対昭群に比べneurosphere数および大きさの著しい減少が認められた。また、SM31900による細胞増殖抑制効果はグリシン結合部位アゴニストであるD-serineにより拮抗された。 したがって、SM31900が培養神経系前駆細胞の増殖を抑制したことから、神経系前駆細胞の増殖にNMDA受容体グリシン結合部位が関与する可能性が示唆される。
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