脊髄が損傷を受けると様々な要因により軸索再生が阻まれ、結果として神経機能が失われる。その要因の一つとして反応性グリア細胞の増殖によるグリオーシスがあげられるが、この構造の由来細胞は特定されておらず、細胞の特異的標識による由来細胞の証明が必要とされている。本実験の目的は、脊髄に存在する分裂細胞である上衣細胞・オリゴデンドロサイト前駆細胞に着目し、その正常および損傷脊髄での動態を解析する事で、このグリオーシスの由来細胞を特定する事、および正常脊髄でのグリア細胞のターンオーバーを証明する事、にある。平成18年度は、1.Creリコンビナーゼ発現アデノウィルスの作成、2.Z/EGマウスヘアデノウィルスを脳室内投与により注入し、脊髄上衣細胞を特異的に標識、3.時間系列における細胞動態を観察するという実験と、4.Olig2-CreER/Z-EGマウスにタモキシフェンとBrdUを投与し、オリゴデンドロサイト前駆細胞を特異的に標識、5.時間系列における細胞動態を観察するという2つの実験系により解析を行った。前者の実験系ではアデノウィルスの脳室内投与による標識法の条件設定に予想外の時間を要したが、最終的にはGFP標識脊髄上衣細胞が脊髄実質内へ移動し、アストロサイトとして分化している様子をGFAP等のマーカーに対する免疫染色により確認された。後者の実験系においては、BrdUを取り込んだ細胞でGFPを発現する細胞が脊髄オリゴデンドロサイト前駆細胞とされるが、この細胞が時間経過後にオリゴデンドロサイトへ分化している像を確認する事が出来た。平成19年度はこの研究を更に進め、損傷部での反応や脊髄上衣細胞のNotchシグナリングの解析を行う予定である。
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