研究概要 |
哺乳類視床下部の視交叉上核(SCN)には時計遺伝子群が駆動する分子時計が存在し全身のリズムを支配している。SCNは大きく背内側部(DM)と腹外側部(VL)に分けられるがこれらコンパートメントの時計発振における役割はよく分かっていない。そのためVL特異的にSCNの細胞を破壊することを考えた。具体的にはVLにh1L2Rα遺伝子を発現することを目的として遺伝子改変動物の作製を行った。BAC組み換え技術にてVIP遺伝子の転写開始点の前後100kbを含むBACにh1L2RαPA遺伝子およびネオマイシン耐性遺伝子を組み込み、制限酵素で切り出すことで5'側約8kb、3'側約4kbのアームをもつノックインコンストラクトを作成した。平行してM(Aiorning)成分一活動期の後半の活動量一の上昇が表現型としてすでに判明しているある遺伝子改変マウスの解析を行った。この遺伝子はSCNでの、DM,VL間の情報伝達を行っていることが想定されているため、M(Morning)成分を担うSCN内のコンパートメントが明らかになることが期待されたが、時計遺伝子発現リズム(Per1,2)の発現を詳細に検討してもそれらの発現に変化は見られなかった。しかし我々はこのマウスが光周期に対して行動リズムが遅れて同調していることを見出した。明暗サイクルにリズムが遅れて同調する病態として唾眠位相後退症候群が知られているがこのマウスはその病態モデルとなることが考えられた。このとき遺伝子改変マウスのSCNでは時刻依存的にVL領域の時計遺伝子が急性誘導されていた。現在、睡眠位相後退症候群の病態として生物時計の光に対する反応性の低下によるモデルと亢進によるモデルが提唱されているがわれわれ今回の動物実験は後者を反映している。
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