研究概要 |
ノコギリヤシ果実抽出液(SPE)は、ヨーロッパでは前立腺肥大症(BPH)治療薬として有効性が認められているがその科学的裏付けは殆ど検証されていない。本研究では、SPEの下部尿路受容体結合活性の検討・活性成分の単離、並びにBPHモデル動物におけるin vivoでの検討を行った。In vitroにおいてSPEは排尿障害治療薬の作用部位となるラット前立腺α1受容体、膀胱ムスカリン性及び1,4-DHP系Ca結抗薬受容体に対し結合活性が認められた。一方、膀胱P2X受容体に対し結合活性を示さなかった。また、SPEの受容体結合活性成分は、主に脂肪酸類を多く含むn-ヘキサン及びジェチルェーテル可溶性画分に含まれることが明らかとなった。さらに、SPEはヒト前立腺α1受容体並びに膀胱及び前立腺ムスカリン性受容体に対しても結合活性を示し、SPEは臨床においてこれら受容体を介して排尿障害改善作用の発現に寄与すると考えられた。ラットにテストステロン(T)4週間皮下投与により前立腺重量は約2倍に増加した。このT投与ラット前立腺においてα1受容体数の増加が示された。またSPE(6、60mg/kg)とTを4週間反復投与したラット前立腺重量は、T単独投与ラットの場合と有意な差はなかった。次にTとSPEの両投与ラットの前立腺α1受容体数は、SPE6mg/kg投与群ではT無投与群に比べ有意に(45%)増加したものの、T単独投与群のそれ(62%)と比べ増加率の減少が認められた。さらに、Tと高用量(60mg/kg)SPE投与群において前立腺α1受容体数の有意な増加が見られなかったことから、SPEの反復投与はT投与によるラット前立腺α1受容体の増加を抑制する可能性が示唆された。本研究より、臨床用量のSPEは下部尿路受容体への直接作用による前立腺肥大の機能的閉塞の解除や頻尿症状の改善などの薬理作用を有する可能性が提示された。
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