これまでに、9人に由来する羊膜より分離した細胞をそれぞれプラスティックディッシュに播種し、数回継代の後に線維芽細胞様の細胞を分離することができた。それらの細胞を骨芽細胞、軟骨、脂肪細胞へ分化誘導を行い、アリザリンレッド染色、トルイジンブルー染色およびオイルレッド0染色を行った結果、全ての羊膜に由来する細胞において、アリザリンレッドによって染色されるカルシウムの沈着が認められたことから、骨芽細胞への分化能を有する細胞が存在することが確かめられた。また、軟骨へ分化誘導した細胞のペレット中には強く異染性を示すような部分は認められなかったが、広範な部位に渡って弱く異染性を示す部分が観察された。しかし、これらの細胞からオイルレッド0によって染色されるような油滴を細胞内に持つ成熟脂肪細胞への分化は観察できなかった。 上記の染色法による分化能の判定の結果を確定するために、骨芽細胞の特異的マーカーであるオステオカルシンのタンパク産生、軟骨細胞の特異的マーカーである2型コラーゲンの遺伝子の発現および脂肪細胞の特異的マーカーであるaP2およびLipoprotein Lipase (LPL)の遺伝子の発現をRT-PCR法によって確認した。その結果、アリザリンレッドによって染色された細胞全てにおいて、オステオカルシンの産生が有意に上昇していた。軟骨特異的マーカーである2型コラーゲンは、一部の細胞においてのみ発現が認められた。また、脂肪細胞の分化マーカーであるaP2およびLPLは成熟脂肪細胞が観察されなかった細胞の一部に発現が認められた。 以上の結果から、ヒト羊膜中には骨芽細胞、軟骨細胞に分化することのできる細胞が存在することが確認できた。来年度は羊膜に由来する細胞の脂肪細胞への分化能の有無を確定すると共に、間葉系幹/前駆細胞に特異的に発現するマーカーの探索を行う予定である。
|