ペルオキシソームは脂肪酸の分解など様々な代謝をおこなう細胞内小器官である。ペルオキシソームの形成不全はZellweger症候群など重篤な神経疾患により、生後早期に死に至る。同様の症状はプラスマローゲン合成酵素単独欠損症においても報告されていることから、複数の代謝障害を示すペルオキシソーム形成不全症では、プラスマローゲンの欠損が主たる病因であると予想された。この予想を検証するため、申請者はプラスマローゲンの生合成におけるペルオキシソーム代謝系の寄与を検討した。ペルオキシソームの主要な機能である極長鎖脂肪酸のβ酸化、あるいは過酸化水素の分解を担う酵素の単一欠損症患者由来ヒト線維芽細胞におけるプラスマローゲンの合成量、および存在量を検討した。その結果、いずれの変異細胞においてもプラスマローゲンの合成量の低下は観察されなかった。したがって、プラスマローゲンの生合成はこれらの代謝経路とは独立した経路でなされていることが明らかとなり、ペルオキシソーム形成不全症の発症は複数の代謝異常の相乗的な原因によるものであると考えられた。また、本研究の過程で、細胞内プラスマローゲン量の増加により不安定となる蛋白質を見出し、プラスマローゲンの生合成が高度に調節されていることが明らかとなった。また、プラスマローゲンの機能発現部位を明らかにすることを目的とし、プラスマローゲンの細胞内分布を細胞分画法により検討したところ、プラスマローゲンの合成初期を担うペルオキシソームには存在せず、少なくとも細胞膜やエンドソームなどに分布していること、さらにコレステロールなどに富む、ラフト画分に存在することを明らかにした。
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