ペルオキシソーム形成不全症の発症はプラスマローゲン合成を含む複数のペルオキシソーム代謝異常の相乗的な原因によるものであるとの結果を得ている。本研究過程において、プラスマローゲン合成不全変異細胞にプラスマローゲン合成中間体を添加し、細胞内のプラスマローゲン量を回復させると、ペルオキシソームに局在するプラスマローゲン合成因子の酵素活性の低下がみられるとともに、当該酵素の発現レベルが低下する現象を新たに見出した。さらに、同様の現象は最終産物プラスマローゲンを導入することでも観察されたことから、プラスマローゲン合成中間体ではなく、最終産物プラスマローゲンによって、プラスマローゲン合成因子の安定性が制御されていることを明らかにした。続いて、プラスマローゲン合成因子の安定性に寄与するペルオキシソーム蛋白質の検索をおこない、少なくともプラスマローゲン合成の2段階目を担うペルオキシソームマトリクス蛋白質とは独立した機構によって安定性が制御されていることを明らかにした。また、プラスマローゲンは定常状態では細胞膜などにも存在しているが、プラスマローゲンの合成が完了する小胞体から細胞膜へのプラスマローゲンの輸送は分泌経路非依存的でかつATPに依存的な経路でなされることを明らかにした。以上の研究成果は、未解明の点が多いリン脂質、特にプラスマローゲンに関して、その生合成制御および細胞内輸送の新たな知見を提供するものである。
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